HAIKU&TANKA(俳句と短歌)言葉を紡ぐことが好きな私は、隔月に一度、句会(ここ1年はZoomにて)に出席しています。 作った俳句や短歌や。単純なテキスト置き場です。 春、夏、秋、冬、新年、短歌、に分けています。 これからも増殖します。 書作にしたものは、Instagramにてご覧いただけます。 Instagram↓ 春
春立ちてシュガードーナツ甘きかな 春雨や古着屋の匂いくぐもる 温し温し仔猫抱くごとパン二斤 こんにちは卵歯で拓く世界は春 愛すべき己が背ほどの蝋梅かな しあはせの数だけか花弁ラナンキュラス 平らかな日々盆梅の蕾あり 濃艶の唇動く闇の梅 残雪梅錆びた門扉と傾ぐなり 菜の花が黄色オムレツの朝食 フリージア吹奏楽団に入る 春愁はミックスジュースのような味 ふよふよと線香の煙しゃぼん玉 来し道を引き返したり青葉風 盆梅や世界はここにありにけり 椿朽つ結構明るき茶色なる 時々は蕾のままで落つ椿 春立ちぬ割りて双子の目玉焼き 合気道教室の脇春告鳥 蒸しパンの膨らんでいる春の夢 春の水森田子龍の蠢けり 初めての盆梅うそのように咲く あたたかな部屋卵歯いま突き破り 作り物のような椿のかたちかな 人間は言葉の生き物朧月 てンティやてンティや稚き言の葉芽吹く 情けなさが喉にかかりて春の風邪 花筏さくら色した靴で行く フリージアはアンバー色の香気噴く 包丁を正座して研ぐ春日向 丸く盛る炒飯くずす山わらう 骨白し湯気立ち昇る梅ふふむ 鬱鬱としていたとして百千鳥 死に顔は何事も無し山笑ふ 四月来るコーヒー砕くけたたまし むの字だけ書けぬむむむと入学児 古着屋の匂ひのやうな春の夢 フリージア弾む香気やパパラパパ 丸眼鏡奥の瞳の目借り時 新社員位置の決まらぬ丸眼鏡 おかっぱをおかっぱにして入学式 春雨は隠し通した嘘のごと 令和来る団地の歴史老桜 吹き通る思念の風や蓬餅 過ぎた日の悲憤のようなゴム風船 クレーン車は大空を架く春動く 浅き春腹の宿から蠢きぬ 蠢きぬ腹に蛙を宿したり 百万の溜息の成す朧の夜 菜の花や工事現場の握り飯 鍋滾る青菜膨るる春日和 春日影香煙昇る骨白し 骨を待つ焼き場の談話笑ふ山 ひそやかに最期の一打春の果 誰も居ぬ仏間の影や春の昼 創作の意味は雲間に朧月 連れ合いの手招きで逝く春の果 屋根上のひこうき雲と春の汗 振り向けど赤い椿の落つるだけ 今朝越して家電がうなる春の夜 さよならを言わない椿落つを待つ さくらさくぷううふくらむふうせんがむ ぽたぽたと今際の刻み春の泣く 花曇り珈琲落つる三角錐 三百五十日分の梅の色 休日の鬼大あくび春一番 梅の躯やピンク身篭りいざ咲かん 大人とは曲水の日を待ち焦がる 淡雪や妖精たちの舞い降りる 告げられし開口一番春一番 受験子のポッケにそっとキットカット 頬紅の下に潜める春愁い 猫背して裏切りに舞う春ショール 地下鉄は春の恨みを乗せてゆく 曲水を待ちわびて今大人なり 前髪を揃えて明日は入学式 水色をこぼし一羽の春淡し 回想と回送列車と春の風邪 十八歳乗せた列車と春の風邪 ある春の陽に滲む五時喫茶室 月の絵のランプシェードと朧月 地下鉄に吸い込まれ春休み過ぐ 小さき(ちさき)夜小さき灯りの梅ひとつ 湯上がりに紅潮したる乙女椿 幾何学の先生の胸乙女椿 ひとつずつあかりふくらむぼけのはな 春の昼仏間に浮かぶ春夏秋冬 一服す思い出くゆる朧月 青葉にて茹で汁ほどの春愁い 庭石に干す梅の皺顔の皺 陽気良くスケッチブックの双葉かな 大きいぞ外野手あくび春うらら 本物と必死で尋ねる桜貝 きょうだいと苺ミルクを作りましょう 青臭いほど好きになる春菊かな 天国は無いと言い切る花絨毯 ふんわりと祖母がいた日の春の風 とっておきとっておけない花飾り イメージを我が物にする沈丁花 永田町春まで長いエスカレーター 捨てられた絵本捲った春一番 こっそりと頬紅さして山笑う 言語野があたたかくなる今日が好き 桜並木無言で渡す缶ジュース 教室の陽だまりの記憶ヒヤシンス 遭わずして薫り立つ風蓬餅 夏 ショベルカー瓦礫粉塵炎天下 アイスティー真白き壁の美術館 氷旗砂漠の民となりにけり 炭酸水の密かな騒ぎ聞いてをり 薫風や血気は盛んミント伸び 聖人君子もホッキョクグマも衣替え 走り梅雨急行列車に乗り換える 梅雨寒や珈琲椀の傾けり 言葉少な余白涼しく葉書出す 鉄瓶の沸騰静か熱帯夜 苦瓜や恐竜の子の背中撫づ 炎昼に微かに潜む秋の香り 風鈴や率爾な風に目覚めたる 俯いて物語見る線香花火 水道の水のぬるきで知る炎暑 知ることの切なさを知る夏休み ぱっと咲く銀座通りの日傘かな ョいしょョいしょ小さき両手アイスティー ロールケーキくるくると巻くかたつむり 旱梅雨エーティーエムの大行列 雀捕る鴉の真黒夏日向 紫陽花や葉の虫喰いは芸術か 五月闇巾木に積もる埃かな かき氷サーモグラフィーの色を見る 鈴なりのピアスとフリルサンドレス どくだみは裏腹に白光りたる ミント切る空気に色が付くがごと 雨粒が弾ける薔薇の甘そうな 白薔薇と赤薔薇の勢力くらべ 嬉嬉として涙目になるソーダ水 新緑の蔦の野望や未来地図 隣室の工事に負けじ生姜擦る 豆苗の傾くは欲望の夏 廃工場色なき風に父の影 仰ぎ見る高所作業や五月晴れ 夏散歩思いがけない行き止まり その西瓜腹で種から芽が出ます 夏の昼仏壇跡の黒の奥 男湯へパパと呼ぶ声夏の夕 宵闇に夢という意味調べたる 台風をぎゃふんと言わす球児かな この夏の伽藍堂なる仏間かな 夏の陽の血は滴るやソルダム 五月晴れタオル干すバシバシになる ナイターで地球の丸き中にいる 草いきれ生きていること教わりぬ 煙草屋の歯抜け婆のレモンスカッシュ 油絵の撫で肩の女(ひと)夏帽子 養生のビニル突き抜け夏の草 眼光と切っ先突き立てゼリー分く 匙ならばフルーツゼリーを掬いたし 旱梅雨バナナの黒点数へけり 曇天を好天と言ふ夏のあり 波しぶく麦酒にライム落としけり 店長は夏の語調のいらっしゃい 透明人間になれるサングラス 太陽を頬張っている温き枇杷 虹立ちて現し身くぐり彼逝きぬ 夏浅し放物線の山上る 「先生へ、産まれました」の初夏の文 履歴書を今破りをり青葉風 一先ずは床磨き終え青葉風 父の声再生せむと青葉雨 翔子弾くピアノ腕上ぐ初夏来る 一縷の灯榊の新緑伏す老婆 唇を紫にしてプール開き 夏といふ文字の旗めく氷店 幼子が足を畳んで柏餅 輝きは金髪に似た新緑かな 五月晴れ球はカキンと天届く 枝豆を一々並べて父の膝 灼岩に想像の目玉焼きを焼け ※灼岩(やけいわ) ただ凛とただ素麺を啜るなり 西日指す怒りの後味伽藍堂 日々を越え夏雲奇峰を渡るなり ひとつずつ豆らしくいるそら豆かな そら豆の青き輪郭食べてをり 透きとほる止まりし時食ふ葛饅頭 見舞い後の拠り所無き夏蒲団 缶切りはグシグシ進む墜栗花前 髪結わき相対峙する鰻かな 原色を探す鯔背な夏の蝶 芍薬の重さドレスのごときかな 虫となり芍薬御殿で目覚めたし 文鎮の鉄の匂ひや梅雨湿り 緑陰に揺れるは靴やポニーテール 風薫るポニーテールをほどくなり 孑孑と書けば命が飛び立てり 塩粒と豆粒つまみ冷やし酒 麻雀に興ずれば尚明易し 鉛筆の粉が動きて蟻の列 石垣を登り帽子にさくらんぼ 夏の蝶ジャズピアノ舞う喫茶室 原因を持ち去りて舞う夏の蝶 小さな手ふたりで顔で食べるスイカ 帰省して将来の夢風来坊 ししとうの当たりを引いて夏終わる 梅雨冷えやハチミツの雨ティータイム 季語たわわ脳にしわしわ麦の秋 蚊をパチンと潰して見る手と血と死 仏間にて扇風機だけ首を振る ユーカリの思うがままの呼吸かな 恋をしてトマトな気持ちになりました 夕凪に煙の行く先ひとり旅 枝豆をつるり並べて父の膝 紫陽花の顔に降る雨零れ落ち 洗濯機の音の向こうに遠雷あり 乾きゆく髪柔らかに梅雨の朝 梅雨曇りの朝に満ちたしアッサムティ 白靴の音が近づく暑い部屋 雷鳴に姿の見えぬリーダーかな 香水がすれ違う踊り場の恋 五月晴れ仰け反り仰ぐビルディング 須く滑らかを食ふ水羊羹 病室から生気眺める五月晴れ 秋 熟れ柿は生きている又は死んでいる 絨毯の厚み以上の秋思無し 模様替え上々照りたる栗羊羹 餃子焼く力士わんさと土俵入り 巨人なら照葉の山を食したし 新入りの風穴開けし秋句会 珈琲の冷めるが早し冬隣 若白髪ずる賢くて秋隣 踊り場でみんみん蝉のひっくり返る 例えれば紙魚の未来を知らぬ夜長 金秋やプリンのカラメル別添で 黒光り烏は熟柿つつくなり まっすぐの地下道を行く行く秋に 刻々と人生半分月半分 ヘリコプター飛ぶ秋空の鼾かな 句作する真しやかに小豆炊く もう既に干し柿の香の富有柿 眼の合ひてちりちり焼ける秋刀魚二尾 銀杏の木黄緑黄色きみどりきいろ 秋爽の窓単線を進みゆく 流れ星空まで近きすべり台 季寄せ開く紙の香ほどの秋思かな 薬箱二百十日は点検日 アマゾンの裸族の旅へ灯火親し 念入りに今日を裏漉し南瓜ぷりん 多肉植物のレプリカに付く露の玉 歩くとは考えること月上る 機動隊に手を振る子ども天高し 地球儀のとなり檸檬の転がれり 踊り場で腹見せて死す放屁虫 嘘をつく余裕無かりし濁り酒 方眼紙にゆで卵置く秋休み 歩き行く我が主語なりいわし雲 缶蹴りの清潔な音天高し 秋の宵半濁点を数へをり 言外のことを伝える金木犀 君のこと想っていない金木犀 坂道を上る風呂屋へ秋の夕 王道は亭主関白青蜜柑 黒光り烏の爺の熟柿主義 笑み栗は狼の口に似ている 山粧ふ貨物列車の長きかな 空っぽのドロップの缶星月夜 漸くに諦められて秋の虹 丁髷を結く子の飯太刀の魚 濃き緑茶哲学をする栗大福 秋分にシーソーが水平になる 小鳥来るバウムクウヘン焦がしゐむ 蓑虫のやや不自然に垂れ下がる ゆく秋やどうして文に涙のにじむ 長き夜にジャムを理想に煮詰めたる 芸術祭私は恋をしています 秋さびし犬は野太い声で鳴く 大梨を鈍で剥く発表日 りんごパイ箱は篆書の包み紙 秋の焼麺麭かじる朝の幸せ 缶蹴りで悪戯仕込む天高し 笑い皺桁数増える十一月 膝が触れ魂胆の色濁り酒 急くときに枯れ葉やはらりかすめたり 林檎パキリ紅潮する少女A 引越しの秋晴れの日の乾きたる 秋の陽を内ポケットに詰めた夕 七三の大将が焼く新秋刀魚 肩凝りと革ジャンパーのとがりたる 朝に燃す炭が燻りて秋の雲 桟橋の低きにかかる水の音 秋湿り上がり半分石乾く 秋といふ文字を彩るのなら赤 神と書し滲み鳴るなり秋の雷 金柑の苦き甘きに思い馳す エチレンと嘘で朽葉が匂ひけり 秋晴れのさすらい土産タルトタタン 今日の日がお猪口に溶けて神楽月 うらおもてちいさなそのてはつもみじ 装いは濁りて山は粧ひて 貴腐ワインひと口祖母は熟柿かな 電柱に蟻が登りて天高し カステラの紙で占う豊の秋 三歳の隣り寝言は笑い茸 格子窓に街灯ひとつ月ひとつ 天窓にすき間ちょうどの望月かな 色もなき風の仕業の白髪かな 床磨き終えて艶増す栗羊羹 更紙(ざらがみ)に淡墨が落つ秋の雷(らい) さよならが尽きた時から法師蝉 さよならのこぼれた訳は流れ星 飛びだしてつぐんだ先に小鳥渡る 自転車でじぐざぐ枯れ葉ぱりぱりり 革ジャンパーギターに着せて通せんぼ 秋の雨今宵こそはとタイトスカート 陽だまりで閉じた瞼に霧時雨 スノッブなあなたと食べるドライフィグ 金髪が頭擡げた厚物菊 冬近し紅いコートを脱ぐ準備 曼珠沙華炎のピンクスパイダー のうみそがきいろくとけてきんもくせい 月が煙草百本吹かせば夜の雨 秋茄子と空気人形は素っ頓狂 冬 戦慄の走る青カビの蜜柑 まあまあと熱燗とととととととと 春支度エスカレーターの長きかな 凍て晴れやぽっかり白ひとつ飛行機 雪催い警備員の真一文字 ブロッコリ正しさ問はれ不可食部 高層ビルの足場こんもり雪積もる 二ン月や母に短き手紙書く ビー玉は何億光年?オリオン座 この真白土より出づる大根かな クリスマス沈思黙考する子ども セロリ噛む明日雨といふ気分する 冬薔薇のある凛として紅一点 水仙の素っ頓狂な明るさは しんしんと長き廊下の蜜柑かな 尻を拭く清浄綿の冷たかり 輪郭の無き夜に吐く息白し 唇がふわり動きて冬林檎 花屋紅くポインセチアの遠慮なく 冬の朝フィナンシェ食べるこのましさ ししゃも食む卵の数は数えない 誤解して炬燵の中の火星かな 初霜や幼子は地団駄を踏む 雪降る日飛び出す絵本開きをり 薪割りのつもりで牛蒡縦に切る 蜜柑ふた房百面相の赤子かな ゆず湯あり湧き狂うそこに沈まん 冬バラの寞寞とした家に咲く 寒風やキンとおでこにカキ氷 逢魔が時影口付け流行り風邪 誰そ彼時悪魔と口付け流行り風邪 寒晴の確信をして朝刊くる 焼き鳥が季語は何故かという肴 雪空に煙舞い上げ凪と知る ジャズ一枚ストーブの赤きまるの中 めがね置き猫あくびして山眠る 曇り空青空雪空東海道 縫初の針山詰める長き髪 祝月暇を噴かして暴走族 地図を飛び田舎連れ来ぬ(きぬ)オリオン座 見上げたら真っ逆さまに冬銀河 時を架け雲流る隙オリオン座 束ねんと時間束ねて去年今年 息止めて歌留多で未来取り合って 人参に鈍(なまくら)遅々と進むなり 遠望し三つ編みに降る小雪かな 気持ち書かない日記買ふこともなく 手袋が抱きとめる頬と紙コップ 闇鍋が干からびて今白む朝 仮病して甘い薬と日向ぼこ 流行を掴む力で風邪っぴき 寄せ鍋の蓋取りし瞬間(とき)オーケストラ 雪兎に傘を貸して帰り道 ソバージュの豊かなる女(ひと)雪見酒 ソバージュに憧れし日の寒椿 縦線が入って蜜柑青ざめて ほんわかと下着の温もり抱いて冬 いつもより短い手紙で二月過ぐ バレンタインハートいろいろアソートメント 睨みつけ赤い壁紙毛皮の人 寒稽古諸行無常に見つめられ ハイネックルーズソックスニット帽 横しまに吹雪く列車の全速力 傷ついたミント千切った冬の朝 思い込め髪止め息止めお書初め 鯛焼きを割り見て湯気に溶ける愛 ただいまぁぬっとパックの雪女 初夢が悪魔の仕業と泣きついて 初雪を三十階から見上げたり クリスマスソングで壊す色眼鏡 短日に明日と歩きたい公園 霙雨思い出鈍るビニル傘 もくもくとこのきなんのきぶろっこりー 白肌の湯豆腐お腹で優しくなる 火恋し震えるポニーテールかな 冬支度パンチパーマのトイプードル 寒空割るはだかの血管落葉樹 新年 シャクン、と前髪切って大晦日 年新た消しゴムで消す真白かな 長旅や数ふ正月孫ひ孫 在りし日の正月遠し孫ひ孫 初晴れや平成三十路となりにけり 元朝に仏間の空も新しき 歌留多して少年の笑み怯えたる とりあえずどきどきはして年は明く 乳飲み子も九十路でも初笑ひ 艶出され漆麗し雑煮椀 カップ麺熱き自由の五日かな 去年今年またいで日付変更線 我が絆し横一列に祝箸 声去りてカーテン広し四日かな 誰も居ぬ人の日カップ麺を食ふ 短歌 ボルゾイの流線型の気高さをワンワンと子は指さして言う うららかにダンデライオン咲く道でヒポポタマスは大あくびする 鶏肉がぱちぱち揚がる脳内に大体ぱちぱち言葉の弾ける 使い出があるとは言えじ鶏の卵の形暫し見惚れる 四温待つ洋食屋にて春キャベツのグラタンを待つ今日は三寒 重機奮うビル解体の狭間から瓦礫粉塵奥の青空 大股の小股で歩く小さき子は脇を開いてふらんこに乗る グツグツと麻婆豆腐煮え滾るポンペイという語の過りたる 大らかに湯呑みと書かれた桐箱の開けた中身は青の洞窟 ブラウンの香り漂う喫茶室黄金色したざらめ糖あり ことごとく語弊があると言ひし師のにやり笑ひし白髪の揺れる 根こそぎに引っこ抜かれし滑り台少年こぞり深淵をのぞく イヤホンでマライアキャリー聴きながら街歩く冬年は急きつつ 理科室のプレパラートで見る草のとなりで伸びるヒヤシンスの根 アマゾンに住む蟻のごとマンションを建てるせっせと役割分担 春という物は無いのさ混沌を区切って名付けから初むること 暗がりで流水あてる哺乳瓶サーモグラフィーの赤が流れる 今朝潰す単行本にいた紙魚の軽さに思い馳せる小夜あり 車いすの女性の紅き唇の林檎を少し齧りたるかな 松の木とプードル犬を整えぬ真の姿の真とは何ぞ 大量の爪楊枝たち散らばって思い出したりあの日の水飴 |