てんやわんやしていた4月を終えて、せっかくの指定席の新幹線ひかりに乗り遅れて東京に戻った日はもう5月で、冬用の布団をファブリーズして乾燥し圧縮して、扇風機を棚から落として割って、毛皮のマフラーをクリーニングから引き取り、ようやく、玄関に置いてあった飲茶さんの新刊『14歳からの哲学入門』を読んだ。
私にしてはハイペースに、丸一日ほど、寝る前、起き抜け、レッスンの合間、一本の缶ビールの後などに読み進めた。 14歳と言えば、私の中の哲学的リンクは池田晶子さんの著書『14歳の君へ』へ飛んでしまうわけだが、事実、著者は『14歳の君へ―どう考えどう生きるか』へのオマージュを表して名付けたらしい。 飲茶さんの本は、『史上最強の哲学入門』の西洋版と東洋版を貸してもらって読んで、これは欲しいと自分の蔵書にすべく改めて購入し、『哲学的な何か、あと数学とか』も貸してもらって読んだ。 特に東洋版の方の『史上最強の哲学入門』は、過去に私に起きた現象にある程度の解釈を与えてくれた気がした。 本を人に貸すと返ってこない可能性は低くない、というのは世の常ということを知りつつ大事な東洋版の方を私はある人に貸した。 それは是非読んでもらって、あわよくば何か話したかったからだ。 たぶんもう返ってこないだろう、と思われるけれど、私も人に借りている『ジョジョの奇妙な冒険』の第七部全巻を2年ほど借りっぱなしなので何とも言えまい。 『14歳からの哲学入門』を読んだらまた前著を読みたくなったので、この際買い直そうかとも思う。 そして『ジョジョの奇妙の冒険』もそろそろ本当に読もうと思う。 私は学生の頃に哲学を勉強していたわけではないし、哲学と言えばこの飲茶さんの本で得た知識くらいしかない。 哲学というものを毛嫌いしたことさえなく、それについて思い巡らせたことがほとんどなかったけれど、哲学というのは決して難解過ぎて凡人には分からないもの、ではないようだし、私たちの日常や社会、認識、思考、「わたし」の存在や「わたし」が存在する「世界」の有無、過去・現在・未来などすべてを含みうる、まさしく身近なものというよりはすべては哲学が呑み込みうるもので、ただの一時の思考ゲームに留まらず、今この「わたし」にも関係が大アリだと思っているので読んでいて楽しいし、考えるのも楽しい。 もちろん学問的には、その深淵たるや・・・というものだろうけれども。 別にそんな面倒なことが考えなくたっていい、というのはそうなのかもしれない。 ただ何となく自分自身において、「何かに対する納得が欲しい」とか「自分について腑に落ちたい」という傾向があって、それについて哲学的な回答や説明を与えられた気がするので、面倒は時に買ってでもする。 何かが自分の中で腑に落ちることによって、初めてコンタクトレンズを付けた日のようにそれまでと同じ世界がワントーン明るく違って見えたり、凍っていたものが解けてすうっと胸が軽くなったり、そんなことが実際に私の体感としてあったのだ。 私の場合、14歳、の頃にはそれを自覚するほど頭は回らず、何かに疑問を持つということがなく、ただただ全然良い感じのしない日々を送っていた。 私にとってそれは好ましくなかった。 それに、哲学が、飲茶さん曰く「誰もが納得せざるを得ない強い説明(原理)を探すこと。考えること、そのすべてが哲学であり、また、『価値』について考えることである。今までにない新しい『価値』を生み出したり、既存の『価値』の正体を解き明かしたりすることである」とのことなので、「価値」あるものは欲しい、つまり「良いことあるかも!」とか「今より良くなりたい」とか、当然ながら私ももれなくそれは欲しいわけである。 ただ、私の場合、「くれたら欲しい」というくらいのスタンスの感じが否めないと自分で思っていて、それを良しとしたいわけではないのだけれど、いまいちその新しい「価値」についての貪欲さが自分の中に見出せないのである。 だからとても怠慢で、つい記号消費社会に自ら合意して甘えに、そして消費されに行ってしまいがちで、それこそ私はニーチェがいうところの「末人」なのではないか、と思うと恐怖を覚える。 私は常識を打ち破るような新しい「価値」にとても憧れを抱きつつ、欲しつつ、その反面で、何か絶対的な「価値」が無いことを現時点で納得している。 おそらく、絶対的な何かが無い、というところで思考を止めることが私にとって都合が良いからであって、そんな「価値」が無い方が安心なのだろうと思う。 しかしこれはつまり、「無い、としていることを有る」「無い、とすることに価値が有る」ということと同じことであるということは、飲茶さんを私に教えてくれた人と先日話しているときに気がついた。 で、私はどうするのだ、私はどうしたいのだ。 それにしても、飲茶さんの本は、全般的にとてもハートウォーミングである。 語調は漫画的だし、時折「カイジ」やら何やらの象徴的な言葉が引用されていて、とても読みやすいし面白い。 しかしこの本について一言で感想を述べるとすれば、ハートウォーミング、だなと思う。 人間が作り上げてきた学問そのものへの敬意や、それに携わってきた先人たちへの愛情が満ち満ちている。 こういうのに私は胸がきゅっとなる。 ちょっとまた、たくさん出てきた哲学用語についておさらいしたい。
2 コメント
mivela
5/11/2016 10:42:36
私も一冊借りて返してないのあるの・・・!
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恵美子
5/11/2016 11:44:58
え、まーーったく思い出せない(笑)
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
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