良い季節だ。
とても良い季節だ。 窓を開けて寝ると、ひんやりと微かに濡れた緑の匂いが入り混じった風が音もなくそっと入ってくる。 抱き心地のない薄い夏蒲団を巻きつけながら眠る。 これからだんだんと夏に向けて進み、コントラストは強さを増していく。 アスファルトは目玉焼きが焼けるような温度に熱を蓄えるようになり、上手に汗がかけない私の顔は紅潮してゆくことだろう。 斎藤和義さんのコンサートのチケットをいただいて、静岡まで出向く。 数年前、私はきっと音楽のライブに行ったのはあれが初めてだった。 千葉のホールで、「生の音楽っていいね」と純粋に思って、YouTubeのライブ動画を漁り始めたきっかけだった。 だから、ブルーハーツよりも手前にロイター板だったのは彼だと言っても良い。 数年後に観た斎藤和義さんの弾き語りライブは、とても良かった。 12弦ギターや、ベースとギターを合体させたもの、ドラムのシンバル部分を足元で鳴らし、ループマシンも駆使。 本人曰く苦手だというピアノも弾いていた。 弾き語り版の曲のアレンジもさることながら、ギターはとても上手くなっているように思えたし、熱い進化が感じられて感動的だった。 確か彼はCDの録音時も基本的に自分でほとんどの楽器を演奏していると「情熱大陸」で言っていた気がする。 自分でやった方が自分の「よれ」が分かる、と言っていたように思う。 確かに時折よれるような彼の歌声と演奏は彼自身によって見事なバランスで回収されているような感じがした。 彼はぼそぼそと「まあ別にどうでも良いんだけどね」と少し斜に構えたようにして可笑しく話すけれど、きっとほとんど照れ隠しなんだろうと思う。 音楽について、ギターについて、とても真面目な方なんだろうと思う。 途中、なぜか私は、斎藤和義さんがaikoの「カブトムシ」を歌うのではないかという縁なき発想に取りつかれて、斎藤和義バージョンの「カブトムシ」がライブ後の私の頭に流れていた。 会場を出ると、千葉のホールで感じたキャンプ場の夜のような濃緑の艶めかしい匂いがしていた。 「青葉おでん街」というところで静岡おでんを食べてみたくて向かう。 30メートルほどの細い道に静岡おでんの小さなお店が20軒ほど軒を連ねている。 きれいなおばあちゃん店主は自分の年を「皺(四八)、32」と笑って、「大正時代からやっているこのおでんを守ってかにゃあかん」と、おそらく毎日死ぬほど同じことをお客さんに言っているであろう様子で、私たちが店にいる間にも3回くらい聞かされた。 おでんは好きな物を自分で取るスタイル。 何がいくらなのか、串の本数を数えているのか、全然よく分からなかったけれど、お会計は二人で4000円だった。 大げさに言わずとも、一生思い出に残りそうなほどの良い風があの場所には吹いていた。 と、この場所を私に教えてくれた人が言っていたけれど、本当にそんな感じだった。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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