マグカップを買った。
なんと5000円。 正確には4860円。 時間が空いたので、ここ1週間ほどの間に思い立って欲しくなったマグカップを、伊勢丹なんかに1年ぶりくらいに足を踏み入れて探してみた。 これまでメインで使ってきた山吹色の大きめのマグカップも気に入って買ったものだ。 嫌いになったわけではないけれど飽きてきた、というのが膨らみ始めていた。 それに少し重たいので、焼き物の薄手のカップが良いかななんて考え始めたのがきっかけだった。 量産ものではなく一点ものが良いななんてぼんやりと考えて、ネットサイトも見ていたが、この類のものはやはり手に取らないとだめだ。 手に取って私に馴染むかを見極めることが最も重要であり、良い買い物をするための欠かせないプロセスである。 食器コーナーで逡巡に逡巡を重ねて、うろうろうろうろ、1時間半ほどはいただろうか。 花粉症のため、マスクに眼鏡だし、物選び中にあまり話しかけられたくない私はできるだけそういうオーラを醸しているつもりなのでやや怪しげだっただろう。 でもたぶん、伊勢丹にはがっついた接客はしないようにというマニュアルでもあるのではなかろうかというくらい、客への積極性はないように感じられた。 毎朝コーヒーを飲む自分のカップ。 毎日使う物の質を上げることがいつからか嬉しくなった。 別に紙コップだって100円ショップの食器だってコーヒーは飲めるけれども。 ワインは飲むグラスによって味や香りが変わるように、日本酒はお猪口の口当たりも含めての味であるように、器によって味が上乗せされるという事象は何度も経験がある。 しかしワインも日本酒も毎日なんて全然飲まないので、家の食器としてこだわりたいと思ったことは今のところ一度もない。 日常の中で、見る度に、あぁかわいいあぁかわいい、と愛でられるものを側に置くことは日々の充実を感じることができるし、それを自分で買ったのだと思うのがもっと嬉しい。 物に限らずサービスなど何においてもそうだけれど、お金を出して良かった、と思えるものにお金を出す決断を下すことは、トライアンドエラーの世界観を大いに持っていて、日々鍛錬である。 いくつか持っているポーランド食器の柄違いのマグカップにも惹かれたけれど、あまりに有名になっているし、一点ものな感じも全然しない。 売り場をぐるぐるする中で、素敵だと思うカップが3,4つ目に留まった。 どれも作家さんの名前が書いてある一点物の焼き物のカップだった。 カップアンドソーサーもフォルムとしてはとてもかわいいし惹かれるけれど、やはりソーサーは邪魔になるだろう。 財布は折りたたみのものより長財布の方が俄然かわいいけれど、やや邪魔に思っている現状もある。 このマグカップが家にある全体像と、コーヒーを淹れたときの色合いと湯気の立ち方と、朝スマートフォンを眺めながらコーヒーを飲む手への馴染み方と。 想像しろ!と私はマスクと眼鏡の下で自分に強いた。 3800円と4860円と6000円と。 特に予算を決めて行ったわけではなくて目に留まったもの。 28000円とかいったものは自然と脳が除外していたのかもしれない。 どれもきゅんと来る。 ものすごい値段の違いなわけではないから、ここまで面倒を買って考えるなら値段による選択を全くもって外しても良い。 結果買ったのは値段としては4860円のものと日本人らしい中庸なものになってしまったわけだが、値段で買ったのではないと胸を張って言いたい。 今になって何が決め手だったか考えると、おそらく、二度と同じものが創れなさそう、という点なのかもしれない。 円錐のような下が窄まった形をしていて、上の方は柔らかで淡い淡い青緑のような色、下の方は焼き物そのもののベージュの色合いになっている。 何か色水のようなところにカップを逆さに浸して自然に垂れてきた模様なのだろうと思う。 カップのしたの方には作り手のサインが筆記体でそっと入っている。 作り手の我を主張しすぎることもなく、そっと、ほっと、でも存在を忘れさせない、そんな佇まい。 ついでに来客用の湯呑みが欲しくなって、それもさんざん考えたけれど買うのをやめた。 翌日、コーヒーを淹れてカップに注いだときの情景は、私が伊勢丹の売り場で頑張って想像したものと何の違和感もなかった。 よくやった。 コーヒーの味が違って思えたのはカップのせいもあるだろうけれど、おそらくドリッパーを変えたことによるところが大きいだろう。 ペーパーフィルターをやめてステンレス製のペーパーレスのドリッパーにしたのだ。 ペーパーフィルターはコーヒーのオイルがあまり落ちないのでクリアでさっぱりとした味わいに、一方ペーパーレスはオイルが落ちるのでコクのある味わいになる、と商品説明に書いてあった。 なるほど確かに、いつもよりこくっとしたコーヒーなのかもしれない。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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