生理予定日より前に、私は何だか落ち着かない気持ちだったので妊娠検査薬を買った。
いろいろなメーカーのものがあったけれど、今はどのメーカーのものを精度が高いので安いもので十分と、20年ほど前にさくらももこさんのエッセイで読んだことを思い出して、安くて2本入っているものを買った。 妊娠検査薬というのは、妊娠していると尿に混ざる特有のホルモンに試験薬が反応するという仕組みでできているらしい。 そのホルモンは生理予定日から1週間を過ぎると検査に十分な分泌量となるが、それより前に検査を行うことを俗に「フライング検査」と言うようだ。 やはり我が身体のことは気になるので、私もフライング検査をしてみることにした。 生理予定日の起き抜けの尿を我慢しながら、深呼吸と言葉にならない決意表明を自分の中でしながら、本当に恐る恐る検査薬のスティックに尿を引っかけてみる。 結果は尿を浸した1分後に出ると書いてあるが、妊娠している場合はもう尿が染みていく過程で判定の線が出るというのはいもうとから聞いていた。 何も出なかった。 ふーん、なーんだ、と私は思った。 そうよねえ、とやや期待をしていた自分に驚きながらごはんを食べた。 ごはんを食べ終わってなんとなくすぐには捨てられずに置いてあったスティックを見ると、ほんのうっすら、髪の毛の半分ほどの線が判定窓に掛かっていた。 尿を引っかけて30~40分ほど経過していたのではないだろうか。 そこからはもう、これがどういうことなのか、インターネットで調べまくったのは言うまでもない。 検査薬がどこのメーカーでいつの時間の尿で生理予定日何日目生理周期何日年齢何歳などなどのありとあらゆる状況の個人的体験談が出てくる、出てくる。 妊娠や妊活の世界がこのようになっていることに初めて触れた私は情報の統括に数時間を要した。 当然ながら、生理を待ちながらあと1週間後に検査すれば良い、というのがごもっともな回答なのであるが、事が事だけに気になったら止まらないのも仕方のないことである。 私がインターネットから導いたのは、妊娠している確率は50%を少し超えるだろう、ということだった。 試験時間外の反応、しかもかなり微弱な、はカウントしない、というのが科学的な答えであって、その反応は「蒸発線」という言葉さえあるほどのものだということも分かった。 「蒸発線」とは、水分その他成分が薬剤に触れて時間経過の乾燥とともにうっすら浮かび上がるものらしい。 つまりは蒸発するときに出てしまった線であり、これは無いものと同じ、陰性であるということ。 しかしながら、私が使った妊娠検査薬は最も蒸発線が出づらいタイプのもので(現に判定窓は空気に触れないようになっている)、本当に陰性の場合はうっすらも影も露も見えないという意見がほとんどであった。 数多の体験談では、私と同様にかなり時間が経過してからうっすら線が現れて、実際に妊娠していたというものもわらわらと簡単に見つかった。 一方で「現在の検査薬はほぼ正確です。陰性と考えてまず間違いないでしょう」という医療監修のようなサイトに書かれていたりもした。 その夜、父親になる人からも検査薬の仕組みから考えてまず陰性だろうというようなことを言われて、無性に腹が立ったというか悲しかったことを覚えている。 そしてやはり妊娠が目標になってしまって達成できないことの悲しみや怒りの念を持ってしまっているという恐れていた我が事態にも憂えた。 妊娠はひとりでできることではないが、妊娠の状態は紛れもなく妊婦ひとりのものである。 他人を巻き込んでの壮大なプロジェクトなのだが、とてもシンプルな意味で妊娠の大半をひとりで負わねばならないという点において、こんなにも序盤で、面倒が多くて辛いなと私は思った。 しかしこの時点でいくら情報を集めたところで特段意味はない。 一週間、待つしかないのだ。 そして生理の来ないまま、指折り数えて一週間。 お酒を少し、飲んだり飲まなかったり。 今度は少し慣れた手つきで、何を考えるでもなく、尿をまた検査薬に引っかけてみる。 水分が染みていくその過程で赤紫色の判定線がくっきりと浮かび上がった。 おお・・・、へえ・・・、そんなふうな感嘆詞を心の中だけで思った。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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