旅日記は温めていたら書けなくなる。
私にとって、旅日記を書くために旅をするのは、目的として成立しうる。 写真好きな人が、半ば写真のために旅行をするようなものだ。 いわゆる日常ではないから、書きたいことがいっぱいになる。 ただそれを書けるのは、私の中の割に大きな喜びであることを、出かける前に書いた記事で思い出した。 忘れてしまうから残しておきたいというのもあるし、ただただ喋るように何か綴りたいのだ。 とりあえず時系列に書き始めるとしよう。 18日早朝、荷造りを終える。 荷物は元々とても少ない方なので6日間の旅行でもバックパックで行くことにした。 そのためにわざわざユニクロのウルトラライトダウンも買った。 今回は、いつも持っていかないお字書きセット、細筆と墨と硯と筆ペンと紙、も入れて。 セラミックの小さな硯も買った。 1時間半ほど睡眠を取って新宿バスタから羽田にバスで向かう。 いきなり余談だが、「バスタ」という名前を、ある人がものすごく自然に使っているのを聞いたとき、私はそれが固有名詞としての名であることを知らなくて、なんだかこそばゆい呼び方だと思った。 巷では「バスターミナル」という普通の言葉を「バスタ」なんて呼ぶことが今や普通なのか、はたまた「バスタ」を教えてくれた人が「オイルサーディン」を例えば「オイサ」というくらい自己流の略語つくりに長けた人なのか、それはなくとも「エゴサーチ」は当然「エゴサ」なのだろうか。 略語全般、私はあまり自覚的に使わない。 何だか略語は、それに対する距離感を無理矢理に縮めるような感じがして、無理矢理な分だけそのものに対する敬意が失われてしまうように思うからだ。 まあ「ミスチル」「エレカシ」「ファミマ」「スタバ」「割り勘」などは私も当然のように言うのだし、このことは以前にもどこかに書いた気がする。 比較的最近知った言葉が略せないのだ。 「ブルハ」も「ストーンズ」も「ピストルズ」も「クリチ」も「リピ」も。 「バスタ」のように、略語がそれでしかない固有名詞としてもはや略語ではなくなっているのだから恥ずかしがっている場合ではないし、こんな序盤で旅日記に足止めを食らわせている場合ではない。 バスタは混んでいた。 予定の便が満席なので次の便でチケットを買う。 もう眠たくて眠たくて、旅行の高揚感は眠気に食われてバスの中はがくんがくんとしていた。 羽田に着いて、免税煙草を買ったり、コーヒーと軽食を摂ったり。 飛行機に乗り込むとマニラ行きは見たところ満席。 離陸前に寝てしまって、離陸の轟音にも気付かず目を覚ますと空の上、ということは過去何度もあってまた然り。 飛行機は、座席の画面がタッチパネルになっていて進化を感じたけれど、あの狭さや乾燥具合はこの後もあまり変わることはないのだろう。 人輸送機としての飛行機は、私はいつも檻の中の家畜をイメージしてしまう。 暴れないように定期的に食事を与えられ、時間が来れば電気を消されたり起こされたりする。 人間の場合は、一時的であることが決定的な違いではあるけれど。 「四月は君の嘘」を観るもののいつものように案の定寝てしまう。 5時間のフライトで半分しか見られなかった。 帰りのフライトで後半を見よう。 着陸直後、外気が暑いのが分かった。 東南アジアの熱気は今回楽しみにしていたことのひとつだ。 私は自らが溶けだしてしまいそうな高温多湿が嫌いではない。 送迎バスに乗ってホテルへ。 ちょうど友人から誕生日のお祝いメッセージと、私の似顔絵が描けなかったという短歌が届いた。 似顔絵を描きやすそうな顔をしてあなた静止画にはならぬ人 ホテルまでの道中、私も今の短歌を適当に吟じてみる。 フィリピンに今立つ私冬生まれ暑さしっくり生誕の嘘 羽田にて私にだけは中国語きっとフィリピンでも現地人 フィリピーナとかつて呼ばれし彼女とは私は双子故郷(ふるさと)へ帰る カラフルなパラソルが咲く青空市ああフジロックや精神疎開 ホテルに着くと、思っていたよりは良いホテルだった。 窓がないところがラブホテルのようだった。 間髪入れず、一泊分の荷造りをして、ロスバニヨスという、マニラから車で2時間ほどの温泉地へ出かける。 2時間といっても、交通渋滞込みの時間。 タクシーの運転手さんは「トラフィックはフィリピンの風物詩だ」的なことを言っていた。 日本人はよく、混雑している駅やスクランブル交差点で人同士が避け合うのが上手いと言われるが、フィリピン人は運転のそれがものすごい技術だ。 クラクションによって秩序なき秩序が保たれているので、とても賑やかだ。 運転は総じて荒い。 ほとんど旅が進んでいないけれど、ここらでアップするとしよう。 旅日記は進むだろうか。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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