梅雨らしい梅雨に、夏らしい夏である。
世の中はあまり活気がないけれど。 とても久しぶりに電車に乗って、空いていていいな、とも思ってしまうけれど。 出先で、暑いのでコンビニで涼を求め、クーラーの冷気をいただきつつ、アイスを買う。 寒いときに温かいものを食べると身体が温まるように、暑いときに冷たいものを食べると身体が冷える。 当然のことながら、暑かったり寒かったりするときの、最も手っ取り早い対処法だろう。 最近、とある集まりの書の勉強会にオンラインで出席させてもらっているのだが、色々と考えさせられることも多い。 私は所謂書道の世界もさほど知らないというのに、今勉強しているのは現代アート、世界的な美術作品についてである。 現在の書の世界は非常に閉鎖的で、団体の構造も新しいものを生むことを許さないかのような構造になっている。 もちろん世界的にも書はアートなのかと言われてしまうほど、矮小な存在である。 世界的な美術マーケットで最も高値がつく書道家は井上有一であるが、絵画が何百億円の中で、数千万の値に留まっている。 この勉強会の集まりは、書もれっきとした芸術のひとつであり、美術界の中でももっと日の目を見ても良いのではないか、と思っている人たちの活動の一環でもある。 私は今でこそ、やっとこさ様々な手法による書の表現ができるようになってきて、見る目も10数年分くらいは養われてきている自負もあるが、元々の美術コンプレックスは到底まだまだ拭えるものではない。 美術全般をやる人は「そのような生まれの変わった人」と位置づけ、私とは全く違うことを考えているから話も合うはずがない、長らくそう思ってきた。 今でも、作品的に全く解せないものを作る人を見ると、随分その機会は減ったが、私の美術コンプレックスはむくむくと顔を出してくる。 しかしながら、幼い頃からずっと長い間持ち続けている美術コンプレックスはその正面から向き合うことをなかなかさせてくれず、遠ざけて今日まで至ってしまっている。 美術界の人からすれば、歴史的背景や歴史的作品も知らずに何をそんなたわけたことを、と言うだろう。 しかしながら、私が表現について自覚的に気合いを入れ始めた25,6歳の時、出会ったロックンロールに影響を多大に受けていて、それは超実存主義的な「私、今、ここ、大事」のようなことを重んじていたから、歴史とか他人の作品とかどうでもよかったのである。 自分の好き勝手、自分の思い通りに作品を作る、それが最上最善であると、青き私は本気の本気で思っていた。 まして、ずっと引きずってきた美術コンプレックスの自分が、何か創作めいたことができるようになった、そのことだけで私は大満足だったのである。 もちろん、自分の好き勝手に作品を作ることは概ね今でも最上最善だとは思っているのだが、そこには思慮が必要だということである。 そんな青き頃からもう数年が経ち、私のロックンロールはきちんと胸の中に根付いて、無駄にヒートアップすることもなくなった。 それでも創作の楽しみというのを失わずにいられたことは、とても幸いなことだったのかもしれない。 そして、あらゆる美術作品を見て、個人の好き嫌いもあれど、歴史的・美術的に見て、価値があるものは主観的にも”良い”と思える状態にまではなった。 しかし今でも、自分が作品を作るときに、歴史的に見たり、美術的に見たりしたことがただの一度もない。 歴史的とか美術的とか、そんな大掛かりな舞台のような話に、自分の作品を乗っけるなど甚だおかしいという気もしてしまう。 しかし、私なんかも創作なんてことをやっても良いのか!、と気づいた時のように、自分の作品を歴史的美術的に見たって、当たり前だが何ら問題はないのである。 だが一方でこの観点を入れると、全く、手も足も出なくなるようにも思う。 筆致も内容もレイアウトも、すでに山ほどにありふれている。 この勉強会に参加させてもらって分かったのは、歴史的作品やその作品の背景を知ることで、今漠然と歴史的や美術的という言葉に圧倒されて手が付きがたくなっている作品制作において、多少視界がクリアになるだろうということだ。 知らなさすぎるから分からな過ぎて手が出ない、そこからは脱却できるかもしれない。 音楽もそうだが、漠然としすぎて恐ろしく、遠ざけがちなものは、落ち着いて基礎を知ってみると良い。 そうすることで、それをやることが叶わないとしても、受け手として楽しんだり、それについて会話したりできるようになって、人生はより豊かになるのである。 ある程度、書の創作ができるようになってきた私の、次のフェーズなのかもしれない。 たぶん、一旦恥さらしなただの愚作が増えてくるのではないかと思う。 でも仕方ない、美術的底辺から遅々と進むしか方法がないことだけは、よく知っている。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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