さて、現在朝6時36分、青森津軽海峡フェリーにいる。
本州先っぽの港は、8月6日とはおよそ思えない冷たい雨が降っている。 薄手のパーカーとウインドブレーカーを着ているが足りないくらいだ。 私の感覚としては10月後半くらいの気候で物悲しさを煽られる。 気候の面で、もはや東京の猛暑が恋しい。 フェリー出航ターミナルの待合室の窓にはべったりと重たい灰色の雲が立ち込め、細かな雨粒が窓を斜めにぴちぴちと濡らしている。 出航なのか、着港なのか、大きなフェリーが海の上をゆっくりと、穏やかな象のように方向転換をしている。 そういえば、海原を目の前にするのが随分と久しぶりのように思う。 これから北海道の南端、函館まで三時間半、海を北上する。 函館は晴れの予報。 5年ほどぶりの夏休みらしい夏休み。 有給休暇ではない、無給休暇である。 初日から旅日記をつけようと思っていたが、なんだか全く暇がなかった。 現在までの振り返り、記憶を記録してみたい。 2日前の土曜日の昼、所定の東北新幹線はやぶさに乗車。 ねぶた祭りのこの時期、はやぶさは当日を待たず座席は満席になってしまうと聞いていたのでひと月前にインターネットで予約していた。 小中高生の夏休み期間中の東京駅は思った以上にごった返していた。 きょろきょろと辺りを見回しながらそれぞれに直線を歩かない人々の群れはやや目眩がする。 スーツケースを持っている場合、人ひとり分よりもだいぶ床面積を取るのに、上半身はそのままなものだから衝突の危険が上がる。 かくいう私も、スーツケースは持っていないがきょろきょろと辺りを見回す人のひとりであるわけだが、このような人混み状況は露も好きではない。 どちらかと言うとこの悲観的寄りな記憶は、おそらく乗車時間までとても十分な余裕の時間が無かったから助長されているように思われる。 私は、飛行機や新幹線、比較的遅れると様々な支障の出る約束事に向かう電車など、便数が少なく値段の高いチケットで、あるいはそれを逃すとその後の予定が著しく狂ってしまうようなものの時刻に間に合うだろうかという不安がすごく嫌いである。 ついでに、焦って走るのも大嫌いだ。 その上、券売機で当日切符を受け取ったのだが、ずらりと並んだ券売機にはずらりと行列ができていて、しまったと思った。 こんなことならばもっと前に受け取っておけばよかった。 そんな機会はそれまでに沢山あったはずだ。 でもそんなタイトでせせこましい人間だと思われるのも嫌で、「まー大丈夫でしょ」と涼しい顔をしたりもするのだが、心の中はざわざわざわざわ止まらないのである。 このような時、たいてい事なきを得るどころか、10分前には全てが完了して出発時刻までやや待つということになる。 私がとても安心してゆっくりと焦らずに出発時刻を迎えるには、出発時刻の軽く35分前に全てが完了するようなことになるだろう。 しかしながらそれはそれで、待ち時間が手持ち無沙汰で長すぎる。 それでもまあ、焦るよりは良いかなという気にはなる。 私は人生において大きなタイムロスをしているのかもしれない。 さて、新幹線に乗るのはほとんど実家に戻るときだから、新幹線は私にとって珍しい乗り物ではないが、エメラルドグリーンのはやぶさ号は在来線の何か特急列車のようで、新幹線には思えない。 座席は東海道新幹線と同じ広さで、シートはブルーではなくブラウンで、頭部に枕が付いていた。 そして、いつもと逆方向に進むのが珍しい。 品川のビル群の間をすり抜けていくのではなく、上野の雑多を抜けていく。 東京を少し離れたところの景色は、団地の群集が北の方が少し多い気がする。 大宮が来て宇都宮が来て、新幹線はいつだって豪速感だ。 そんなことを少し思っているうちにやっぱり寝てしまって間もなく八戸駅、次、新青森駅。 そうこうしているうちに、リアルタイムでは函館港に到着。 乗船して3時間半が経過した。 これを書きかけで、フェリーから差し込む光は眠気を誘う白い光で、というのは言い訳なのかなんなのか、2時間半ほど寝ていたことになる。 フルフラットの座敷のようなところでごろ寝なんてしたら当然寝てしまう。 基本的に私は、眠りん坊である。 函館に降り立つと、天気が少し良くなっているし暖かい。 青森は本州最北最果て、函館は北海道の最南端。 緯度的に「北」に上がっているはずなのだが、「南」と名のつくところの方が明るく暖かい気がするのは何故だろうか。 北スペインよりも南フランスの方が明るい感じがしたし、北モロッコよりも南スペインの方が活気があったように思う。 「北」という言葉は寒さや切なさを誇張し、「南」という言葉は暖かさを上乗せする効果があるのだろうか。 フェリーの中の大きなトラックとその整備などで働いている人々を見つつ下船。 また見ることもない山が遠ざかる、山頭火の1句が思い浮かぶ。 旅路の出だしだが、とりあえず。 また書けるだろうか。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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