牛すじ、牛すじなんかが売っていて、人生で初めて、牛すじを買ってみた。
「牛すじの煮込み」「牛すじ煮込みカレー」それ以外のメニューが思い浮かばない。 ちなみに「もつ」を買ったときも同様の高揚状態にあった気がする。 最近、本日のお献立をInstagramに上げているのだが、その日のメニューはその日に決めるというか、作っている最中に決めるというか、決まるので、事前に献立を書くことができない。 牛すじも、牛すじを買って帰ってから、牛すじ煮込みの材料や作り方を検索した。 ねぎと生姜があった方が良さそうだが、生憎両方切らしている。 そしてなんと驚くことに、適当に検索に当たったレシピには所要時間2時間以上、と書いてある。 大変なものを買ってしまった。 以前、その場の流れで鯵を買って、秋刀魚のように丸のまま焼いて食べられないことを知り、泣く泣く切れない包丁で雑に捌いたら、なんと魚臭い焼きものが出来上がった。 食材を無駄にしてしまう罪悪感というのは誰しも結構大きいのではないかと思うが、それは私も同様で、それでも食べられなかったので捨てたという記憶がある。 食べ物を捨てることに対する罪悪感は、きっと上手い思考の切り返し方があると思っているが、まだそれを習得していないので、心が得も言われぬ重さに沈んでしまう。 しかも、失礼な話だが、魚のそれよりも肉のそれの方が大きいように思う。 何としても、牛すじ、美味しく食べなければと呼吸を整えた。 説明文を読むのがとても嫌いで苦手な私だが、レシピにざっと目を通して、ポイントは肉の臭みを取ること、具体的には一度茹でこぼして肉を流水で洗い、似ている最中に出る灰汁をこまめに取ることだと分かった。 あとは和風の煮物だから、そこからは心配ないだろう。 あと懸念されるのは、圧力鍋でもないし、普通の家庭用のガスコンロで牛すじが柔らかくなるだろうか、という点である。 煮込めば煮込むほど柔らかくとろとろになります、と書いてあるがにわかに信じがたい。 というのも、鶏肉も豚肉も、長く煮ると出し殻になって肉の方にはほとんど旨味が残らないからである。 すじすじで固くて食べられなかったら、一緒に煮る大根と人参に旨味を吸ってもらって、せめてそれだけでも食べようと心をなだめておく。 さて、ねぎも生姜も無しで煮るのだから、臭み対策は手間を省いてはなるまい。 普段、生肉も茹で肉もほとんど素手で触らないので、肉を洗う、というのはあまりやりたくないのだが仕方あるまい。 生肉でないだけ幾分マシである。 少し緊張しながら、雪平鍋に水を入れて、水から肉を煮ていく。 確かにとてもたくさん灰汁が出てくる。 灰汁を取り除きながら、沸騰したところでお湯を捨てて、冷ましながら牛すじを手で丁寧に洗う。 いまいちこれで合っているのか、不安は付きまとっていたが、シンクには灰汁のようなものが落ちていくので、これが臭みの素だということにしておこう。 ひと通り肉を洗って、小さめに切る。 この時点ではまだぶつ切りにざくっと包丁があたって、ごつごつすじすじしているのが分かる。 でも進むしかない。 再び雪平鍋に水を張り、肉を戻し入れて、同時に大根と人参と下茹でした糸こんにゃくも入れた。 沸騰して、和風だしの素、酒、しょうゆ、みりんを適当に。 牛すじの量も把握していないのでそこは適当に。 牛だしは味が濃いので和風だしの素は少しで良いとレシピに書かれていたので、控えめにする。 一時間ほど弱火でことこと、時々灰汁を取り除きながら。 この時間に他の品を作ることができるので、さほど時間ロスはないのかもしれない。 まあでも、1,2時間も台所仕事をしていたくないなあと思いながら。 頃合いを見て、汁の味見をしてみると、少し薄めだが、牛の味が出ていて旨い。 灰汁を丁寧に除いたので、汁も透き通っている、終盤まで心配していた臭みもない。 少ししょうゆを足して、再沸騰したので火を止める。 何にしても煮物は放置して冷ますことが最重要である。 晩ごはんのとき、仕上がり上々な顔つきの牛すじ煮込みをテーブルに並べる。 恐る恐る牛すじを噛んでみると、とろっとほどけた。 あらまあ、こんなに。 先日鶏の手羽元でクリーンヒットを出したばかりだが、これもクリーンヒットと言って良いのかもしれない。 旨い。 常々、料理に関して、時間や手間や気持ちの総合コストパフォーマンスにかなうレシピを探し求めている。 牛すじは少しだけ面倒が多いのだが、寸胴鍋でも買ってもっと大量に様々な野菜を放り込むことができそうだし、そうすれば数日食べられるし、さらにカレーなどにしても良い。 敷居の高い殿堂定番レシピ入りができるかもしれない。 人に料理をふるまうことはめったにないけれど、そういうときにも映える。 光明のある食材だ。 良い日、の認定をしても良いだろう。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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