奄美大島へ飛ぶ。
東京より断然暖かくて、特別にやることがないところならどこでも良かった。 石垣島と迷ったが、10年ほど前に行ったことがあるのでやはり行ったことがないという点が決め手となった。 まあ本当にその地が好きなら何度も行くべきだし行きたいものだと思う。 気質的に比較的値段の高い宿に泊まることをどの旅行でも今までしてこなかったが、今は身重ゆえお酒を飲むことも各種アクティビティに参加することも難しい面があるので、その分宿をランクアップしてみることにした。 ちなみにアクティビティといえば、ホエールウォッチングだけ予約をしてある。 さて奄美大島、そして高いホテルはどんなところだろうか。 前日の昨日、早起きをしなければならないプレッシャーなのか、あまり眠れなかった。 なんだかいつもより、ワクワクしていた。 旅行の行きの道中はそれなりにワクワクするものだが、色々な手続きやそちこちの移動が億劫に感じることのほうが多かった気がする。 今回なぜいつもよりワクワクが大きいのかの理由のひとつは、普段からの散歩が効いているのではないかと思う。 歩きつけている分、すたこらと歩くのは全然苦ではないどころか、歩数が稼げるなどとも思う。 フットワークが軽いとは、身重なのに身軽である。 私は自分のことを酷く怠惰でフットワークの重い奴だと自覚しているので何だかそれが嬉しいのである。 まあでもしかし身重であることには違いはない。 搭乗前のベンチで、私は優先席に座ってみた。 杖をついた人の絵、心臓ペースメーカーが埋め込まれている人の絵、子連れの人の絵、妊娠している人の絵、松葉杖の人の絵。 マタニティキーホルダーを区からもらっているが、まだ一度も付けていない。 妊婦だからといって気を使わせるのは嫌だということから来ているのだが、私はこれまで妊婦にそのような目線を向けてきたかもしれない。 なってみないと分からない、というのは何事もそうだが、もう少し想像力を持ちたいものである。 あと、席を譲られる側も、別に優先席マークに値しなくとも具合の悪い人は使えば良いわけである。 周りが気づいてくれなければ、具合が良くないので席に座らせてください、と自然に言えば良いのだと思う。 ホテルをランクアップしたくせに、航空券はLCCで成田空港発。 奄美大島行きの便は30分ほど遅延して出発した。 キチキチの座席はリクライニングするのも憚られ、俺もリクライニングしない私もしないあなたもしない、と乗客全員で暗黙の誓いを立てているようだった。 ぎっちりの飛行機で3時間、途中初めて胎動のようなお腹のポコポコを感じつつ、しかし十分にフライトに飽き飽きしながら奄美空港に降り立った。 そして、ここから宿まで車で2時間強。 カーナビが海沿いに1本のうねうね道を延々示している。 農作物を作っている気配や放牧の気配が見当たらない。 町というか集落もとても少なく閑散としている。 これは曇りだったからだと思うが、暗い。 平地が少なく、山ばかりの奄美大島はあまり開拓がなされていないらしい。 奄美大島は沖縄本島と同じくらいの面積があるにも関わらず、人口は沖縄本島の10分の1、10万人もいないのだそうだ。 「島」という漢字には「山」が入っているが、まさにぼこぼこと山が隆起して島ができたという様相である。 車のハイビームを点けないと道がわからないほどに街灯は少なく、真っ暗である。 時折現れる集落を見ると安心する。 以前からそうだが、私は圧倒的な自然には恐怖を強く感じる。 車という現代の甲羅に守られて尚。 もしここで車が故障してしまったら、もしここでカーブが曲がりきれずに海に落ちたら、もしここで運転手が心筋梗塞を起こしてしまったら、もしここで竜巻が起こったら·····杞憂なのも承知の上でどきどきする。 自分を宥めるために、大丈夫大丈夫と呪文を唱える。 私はたぶん、生来の怖がりなのだ。 あるいは、この状況を楽しいと思えるように考えてみる。 これは、無事に帰れたら後日の体験談を誰かに語るに値する、という程度にしか考えられない。 運転手に不安が伝わるのは良くないと、ならば寝てしまえと目を閉じる。 そうこうしているうちに、まさしく果ての果てまで、マップ上は道が途切れているところまで来て宿に着いた。 誰だろうか、こんなところにリゾートホテルを作ろうなんて唆した奴は。 おそらく島民ではなさそうである。 さて、ごはんはシンプルな味付けでとても美味しかった。 4泊5日。 持ってきた本を読みたいと思っているが旅行期間中に手が伸びるだろうか。 読書したいと思えるほどに暇、という状況をわざわざこんな果てに作りに来た。 家から成田空港、成田空港から奄美空港、奄美空港からホテルまで。 1000キロ以上移動していて疲労困憊だが、自歩6000歩程であるのは悲しい。 旅日記の続きはまた。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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