地元の書家を、ということで東三河にある肉屋さんから看板ロゴを書いてほしいと依頼があった。
地元の書家さんを、という言葉を見たとき、何だか胸がきゅっとした。 大学上京以来、私はただの一度も地元に帰って暮らそうと考えたことがない。 大病でもしたら地元に帰ることになるだろうかとそんなことまで危惧しているくらい。 東京が好きだ、とも言えるし、地元はあまり好きではない、とも言える。 それなのに、何だか胸がきゅっとした。 嫌悪ではない、嬉しかったのだ。 愛着などない、と表面から骨の髄まで思っていると思っていたのだけれど。 不意に大学が同じだと言われると「お!」と思う心が少しある。 でも、地元が同じだと言われても「ほう」としかならない。 帰りたくなった、ということでは全然ない。 けれど、ことり、と心が動いて、ん?と軽く振り返りたくなるような、そんなふうに思ったのかもしれない。 いろいろと四苦八苦して何パターン化かを仕上げる。 誰でも読みやすい字、男っぽくて力強い感じで、というのがご要望だった。 私からもいくつか確認して、滲みのある淡墨はNG、改行は適宜、印はなし、という条件の下書き始めた。 いつも創作をするときは、書を知らない人はおよそ読めないような字ばかりを書いているので「容易な可読性」ということがとても制約に感じる。 しかし、ロゴなのでパッと見で読めるということは極めて大切なことだ。 積み上がった反故と、がちがちになってしまう左半身。 ああダメだ、ああダメだ、もっとこうだったら、うまくいった!、がしかし最後の文字最悪!なんてことを繰り返し繰り返し。 スポットスポットで良いものが書けたとしても、こういう思いは書を続けている限りずっとずっと続いていくのだろうと思う。 展覧会の作品は、会期を終えると筒に入って戻ってくる。 その筒はほとんど開けたことがないのだけれど、それをひとつ紐解いてこの度の作品の発送準備をする。 好きなことを仕事にする、そんなふうに生活している、できている自分に改めて少し驚く。 この度の作品を書かせていただいたことは、誇りに思おう。
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勿忘草
無論書道のこと、否応なく育児のこと、などの雑記です。文字自体も好きですが、文を書くのも好きです。 カテゴリアーカイブズ
3月 2024
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